− 鯛の姿焼き編
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[a sea bream] 終わりの始まり  2006年04月13日09:29

一枚の紙に書かれた“×”印を上から追ってみる

へぇ……こことここ……ここも? 意外だなぁ
おおとり財閥の手の届かぬ場所はないと思っていただけに、
ちょっとびっくり

“この場所のどこかに、鮎の姿焼き様がおられます”

さっきのテラン様の言葉を繰り返してみる

やがて、

“コンコン”

ドアがちょっと荒く鳴った
どうぞ、と言うと

「鯛!!見て今度こそうまくいったはず!!」

顔中汗だくのロキが、言いながら慌しくドアを開けて
一枚の皿をぼくに向けて差し出した

……………えーと……

「ロキ……」

「ほら、今度こそ“うさぎリンゴ”!!」

「……どう見ても蟻穴にいる……」

「……!!」

ロキの耳が垂れ下がる
本当に不器用だなぁと、言葉にするのはやめてみた

すかさず、

「まったく、リンゴ一つ人様向けに剥けないとは
ロキ、“うさぎリンゴ”とはこういうのを言うのですわよ」

ロキの後ろからGeymarkが歩み寄って来る

 

うん、さすが、完璧だ……明らかにうさぎリンゴだ……

 

「うう……でも聞いてよGeyさん!
DeLPiなんか名前のついたハルバートで皮むきしようとしてたし!
それに比べたら!」

「……あ、あれはあれで一生懸命なのだから
親切を軽んじてはいけませんわよ」

は、ハルバートでどうやって剥くんだろう……

「あ、有難う、二人とも」

ぼくはようやく動かせるようになった首を軽く下げて
手を差し出し、二人の皿を受け取った

 

 

さっき見舞いに来てくれたテラン様の話によると

ヴァヌー様が弾き返したホッグキャノンの弾丸が天井に直撃、
その破片をモロに浴びた為に、
背骨や肋骨の一部がボロボロに砕けてたとか

ヴァヌー様の城のエルダーたちの手厚い治療で、
なんとか一日で骨の状態が戻ったものの、
まだ神経の状態が悪いらしい

少なくとも3日は狩りしちゃダメって言われてしまった……

うう、もうすぐでハイエロファントや副業(サブクラス)の資格を
得られるという時に……

 

誕生祝賀会でぼくが婚約者にされていた件については、
詳しい経緯は分からないものの、
やはり兄貴が事の発端になっていたことは間違いないみたいだ

兄貴は一ヶ月ほど前にヴァンガード、マグライダーに接触

重臣の三人は、城の経理に疑念を抱いている切れ者のテラン様を
おとなしくさせるため、“相応の”婚約者探しをしていたところ
兄貴と出会い、

「うちの弟は扱いやすいからオススメ」

と話を持ち込まれたらしい
ただ、そこに真意はない

兄貴の狙いは……

“おおとり財閥から逃げる事”

マグライダー、プラウラー、ヴァンガードは
裏取引の為の“場所”を幾つか設定していて
そこはおおとり財閥の目がない場所とか何とか……

兄貴は恐らく、この城の不正をどこかで知って
悪知恵を働かせてそこにつけこみ、取引を持ち込んだと見られる

“俺をおおとり財閥からかくまってくれれば、
そっちに弟を渡す”

ぼくは取引材料になったわけだ

 

ぼくがこんな状態でなかったら、
兄貴を何としてでも探し出して、
ヴァヌー様やテラン様に詫びを入れて事の始末をつけろと迫っただろう

でも……

おおとりさまは、エルダーであるにも関わらず
ぼくが瓦礫の下敷きになり、そして今に至るまで何もしていない

ぼくたちは同じ血盟にいる
互いに血の誓いを交わした仲であるはずだ

でも……これは、
血盟員よりも

“自分にとって有利なものを選択した結果”

なんだろうな……

 

「で、おおとり財閥が動き始めたようですけど
組長は、身内の不始末をどうされるおつもりかしら?
わたくしはテラン様の望みに沿うため、ヴァヌー様のところに
一時身をおくことになると思いますけど」

考えにふけっているところでGeymarkが尋ねてきた

「……不始末、という意識も今はあんまり……
Geymarkの意志は分かったよ、テラン様に知恵を貸してあげて」

言いながら苦笑する

「……同情なさってるのね、兄に」

ぼくは同意の意志を笑ってごまかした
テラン様に渡された紙を再び広げ、また4つに折る

「ロキ」

「ん?」

「これ、今燃やしてくれる?
ぼくはもう把握したからいらない」

 

兄貴が隠れてる可能性のある場所を記された紙は、
オレンジ色の炎に包まれ、塵一つ残さず空気中に蒸発した

ついにおおとりさまはじめ、
おおとり財閥が本気になってしまったかも

兄貴、今捕まるのはまずい
事件を起こしたことについてはあとでじっくり聞かせてもらうから

今はとにかく、逃げて!

 

 

「鯛様……裏が作ったうさぎリンゴです……」

「……DeLPi……こ、これ巨人の洞窟で見たことある……」

 

終劇



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