[a sea bream] 盟主としての仕事と思えば 2006年03月12日23:18
「こちらが送られてきた招待状です」
「おお、鯛の姿焼き様、確かに
お待ち申し上げておりました!
……それにしても、その……」
受付のエルフは、ぼくの全身をちらちらと見ながら
ちょっと渋い顔をした
「なにかな?」
「まさか、その格好で出られる訳じゃ……」
苦笑しながら目を逸らした
ぼくはすかさず、
NMローブに刻まれた傷や焼け跡が相手によく見えるように
体を捻りながら言った
「今日は、エルモア町内会の懇親ハントが火炎沼であったんですよ
まさか、町内会の公共行事が祝賀会にかぶるとは思いませんで……
こちらも立場的に抜けられないんですよ」
「さ、左様でございましたか」
「終わったあと急いで向かったけど、
パーティの準備には間に合わなくて……
ここの来賓用の更衣室を借りようと思います」
「あ、はい、お着替えなされるのですね
これはこれは失礼致しました」
……嫌味なヤツ、いっくら貧乏と言われようが
こんな格好で出るわけないだろ
まぁ、懇親ハントのことは嘘だけど
受付の男は、嫌味なほどにニコニコしながら
どうぞ、どうぞとぼくを男性用の更衣室に案内した
やがてある一室の扉の手前に立つと、
「では、お着替えが終わりましたら、私のところ、もしくは
周辺にいるスタッフに声をおかけください
場内をご案内致します」
そう言ってまた受付の方へと戻っていった
うーん……なんておおらかな同盟だ、
ボディチェックの一つもしないなんて……
幸い、今は更衣室に誰もいない
さすが、上流階級のお客さんはみんな律儀ってことか
城の外できっちり優雅に支度してくるのだろう
結局兄貴は、待ち合わせの時間には来なかった
10分しか待たなかったけど、恐らくそれ以上待っても来はしないだろう
うん、予想したとおりだな
こうなると、既に城内にいるか、
もしくはずっと離れた場所に身を潜めているか……
ぼくはただ、
兄貴がグルーディオ城主と関わった事で
同盟内に変な波紋が広がるのを一番心配している
城主は“ヴァヌー”という元テンプルナイトのエルフなんだけど
今日の日までまったく良い噂を聞かなかったのが気になる
それもあって、ボイコットは選択肢から外した
具体的な手段はまだ思案中だけど、
どこかで防ぐ術を考えないといけない
先に兄貴をとっ捕まえて事情を聞きだそうとしても、
確かな根拠がないと、多分いつもの調子でかわされるだけで
真実は出てこない
あの人、問い詰めすぎると超・逆・切れするしね
ならば、噂の発端と噂の根源を内部から掴んで
兄貴がぐうの音も出せなくなるカードを増やすのみ
可能であれば城主、もしくは娘さんに事情を聞きだしてみよう
でも……、
“このまま”ではスムーズに情報を得られそうにない
ぼくが城内で既に噂の人なら、
素で参じたら情報収集どころじゃなくなる
それに、本当に“婚約発表”をするんだとしたら
行く行くは何らかの形で拘束されることになるだろう
常識を逸したアイデアだけど、バレなきゃこっちのもんさ
内部の情報収集には、やはり……
エルフ村で売ってた“ぱっとタイプぬーぶら”、
ドワーフの“塩焼き”姉さんに買ってもらったけど
高かった……Bカップで100kもしたよ……
あとエルフ村の道具屋店員“ハーブティエン”の秘薬、
これも高かった
アキュメンとあわせて使うと更に効果が高まるらしい
もろもろの道具については、姉さんに尋ねたら
ごっそりワンセット貸してくれた
あの人、そういうマメな人じゃないと思ってたのに
意外と女性らしいところあるんだなぁ
あ、うん、もちろん“剃った”よ
やるなら徹底してやらないとね
これも盟主としての仕事と思えば恥もなし
……さて……
……うーん、自分で言うのもなんだけど
かなり上手くいってない?
よくここまで出来るなと自分でも関心してしまう
仕上げはー、
ロキから貰ったレディーのヘアピンを付けて、と
ぼくは男性更衣室の扉をそっと開き、
近くにいた城内スタッフに向けて軽くスリープを唱えた
おーおー、さすが一般人、簡単に寝るね
さぁ行くか!
……おっと、大股すぎた
歩き方注意しないと…… |