− 鯛の姿焼き編
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[a sea bream] 捕獲執行人  2006年03月13日20:35

やっぱり来てたな、おおとりさま

あの人の組織は、ほんとに得体が知れない……

こういう場所まで力が及ぶなら、
ずっとずっと良い出会いが余るほどあるだろうに
どうして兄貴みたいなダメダメな男が好きなんだろう?

ま、今はそんなことはいいや

おおとりさまは気付かないフリをしてくれたみたい

とにかく、ここでは挨拶以上の会話をするのはNGだ
「今はぼくに関わらないで、あと余計な事しないで」
と視線で訴えかけたけど、通じたかなぁ……

 

大広間に出ると、既に大勢の招待客で溢れていた
給仕やメイドさんたちがドリンクを手に歩き回り
招待客はドリンクなどを楽しみながら挨拶や歓談を交わしている

ぼくもシャンパンを一杯頂戴して、
城内をものめずらしく見るフリをしながら
ゆっくりと歩き始めた
観光気分で物見したい気持ちはあるけど、
今はそんな事してる場合じゃない

ん、視界の端っこに忙しなくウロウロしてる男がいる……
あれは礼服じゃないな、マジェスティックローブだ

よし

 

「あ! す、すみません! 大丈夫ですか?!」

「ああ、こちらこそ……余所見をしてしまっていて」

天井を見上げながら歩いてわざとそいつにぶつかってみた
シャンパンも相手の服にかかるように手放したので
案の定、相手の胸元がびっしょり濡れている

「本当にごめんなさいね
そのままお待ちくださいな」

「い、いえいえ、大丈夫ですから、お気遣いなさらず」

「今拭いてしまえば、シミになりませんから」

すかさず白い革のバッグからハンカチを取り出して
有無を言わさず急接近、シャンパンを拭き取り始める

男は諦めたのか、歩き出そうとした足を引っ込めると、

「あ、あの」

やや焦った調子で問いかけてきた

「はい?」

「失礼とは存じますが、
お名前などお教えいただけないでしょうか?」

何となく予想通りの言葉だ
ならば……

「何故?」

「ああいや、お詫びに新しいハンカチをお贈りしたくて」

「そんな、お詫びだなんて
それに、名乗るほどの名前など……
私は血盟“ジーヴァ”の者です」

「……ふむ、ジーヴァですか」

男は顔色を変えた

血盟“ジーヴァ”はエルモア竜神会と同盟を組んだ血盟

ぼくの予想が当たっているなら、
男はこの城に招待されている人々の素性や名前、血盟名など
殆ど把握していないはずだ

ジーヴァという血盟の名前を聞いてこの反応……

「あの、ジーヴァといえば鯛の姿焼き様の同盟血盟ですよね
鯛の姿焼き様はご一緒でいらっしゃらないですか?」

やっぱりな
想像は確信に変わった

「え? エルモア竜神会の?
彼も招待されていたのですか?」

「え、ご存知ありませんでしたか?」

「はい、初耳です」

「あ、ああ、ハンカチ、ジーヴァ様宛てに郵送しますね
ありがとうございました、私はこれで」

男は言うなり、
走り出すんじゃないかという勢いで去っていった

あ、今上着の袖の中に赤い柄がちょろっと見えたな

MFDかそのあたりの、魔力を帯びた短剣だろう

 

なるほど、
ぼくを捕まえるための“執行人”だろうという読みは
当たったようだ

 

多分ああいう“影”は何人かいて
手分けして鯛の姿焼き、及び鯛の姿焼きの知人を
探して回っている

ということは恐らく、
おおとりさまのところにも行くはず

くそ、この大広間じゃ、人一人探し出すのは容易じゃない
なんとか連絡とれないかな
彼女が口を滑らせたら、ぼくや同盟の運命が……



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