− 鯛の姿焼き編
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[a sea bream] 痛みをドゾ  2006年04月06日00:50

実体のない赤い力に神経を集中して、
距離を取ろうと後退する相手を見ながら右足を踏み切る
相手の目前で着地すると同時、カタチを成していた羽は分散し
ぼくの両手を取り巻いた

思うまま、両の手のひらで思いっきり地面を突く

「ぬ?!」

ぼくの動きを読めなかったのだろう
そしてシーレンの力“エンパワー”は、
どうもこの血と相性がいいらしい

咄嗟に動けなかったらしいマグライダーは、
地面から急速に伸びるドライアードの根に一瞬にして束縛された

「今、見えたぞ……
グランカインの子供たちに垣間見える力が」

む、この男
エンチャントを見抜く一面を見せたりしたけど
あれは彼の経験だけがそうさせた力じゃないな……

“魔力を嗅ぎ分ける”才能があるのか

でもそんな怖い顔しなくていいよ、
もう“コレ”は維持出来ない

赤い光はぼくの体を離れ、すっと空気中に分散し始めた

所詮、“失敗作の子孫”

本当に使い物にならない、1にも満たない力

はぁ、この能力がもっと持続すれば
ぼくももっともっと違う道を歩めたかもしれないな
ハーディン先生の生の歴史に負けなかったかも

でもでも!

アジトや城なんか持ってなくても、充分幸せ
戦いに強くなくたって、英雄になんかならなくたって、
ぼくはぼくなりに充実した生を送ってる

歴史に名を残すより、
平凡にちょっと充実を加えた今の生を保つことの方が
大事なんだよね

ぼくの持つ力の根源が見えちゃった君には、
今のぼくと同じく口を塞いでいてもらいたいな

そう思いながら右手の剣をマグライダーの左肩口に
思いっきり突き刺す
ルーツで隙だらけだったので、そこまでは簡単だった
右手を離して左脇のポーチに手をかけたとき、
予想外の動作が目の端に移った

「ククク、もっとだ! もっと!」

マグライダーは気がふれたかと思うほど高く笑った
そして根が届かず比較的自由な状態だった左手で右腰に手を回し、
細い万年筆を取り出すや片手で起用にキャップを抜き、
勢いをつけて左目に……!

え、な、何?!

左目から流れる血が、ぼくの肩を濡らす

「禍々しい力は失せたようだな、丁度いい……
この痛み、貴様も味わうがいい……」



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