− 鯛の姿焼き編
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[a sea bream] それ全部貸して  2006年03月15日10:15

大広間の扉を開け閉めする音の回数が減った……ということは
あらかた招待客は入った、
そしてぼくの周囲には影はいない

よし……ここは一つ

「そこのメイドさん、ちょっといいかしら」

「は……、!!」

ぼくが見える範囲から離れない、
首の太いオカマメイドを呼び止める

「お化粧室はどちらかしら?」

 

大広間から出ると、不思議なほどに警備が薄くなり、
廊下は見渡す限り誰もいない
多分原因は……
まぁ、影の判断は正解だな
“あの人”を押さえるには50人くらい必要だと思う

なにはともあれ、チャンスだ

「……ロキ、何やってんのこんなところで」

叫びたかったが、押し殺して小声で問いかけた

「たたったたったtt鯛こそその格好……こ、声まで変えて」

「ここにいるってことは、
今日の祝賀会の噂を知ってるってことだよね?
知ってる限りの事を教えて、短めに」

 

テラン様とぼくが婚約することになっているという話は
確からしい

ロキがここに来た目的は“同盟のため”とのことで
給仕の募集が締め切られていたからやむなくメイドになったとか
……なんか他に下心がある気がするけどまぁいいや

Geymarkは城主とその娘の事情を調べるために
内政事務官として潜り込んだとの話だった
……でも内政事務官という割には
随分派手な正装してたけど……

他にも知り合いが来てるかどうか聞いてみたところ、
知人はGeymark、おおとりさま、ロキの3人だけらしい

 

「とりあえずロキは……」

これからどう動くべき、をアドバイスしようとしたところで
大広間から盛大な拍手が響いた

「……主賓来場か」

壁に耳を寄せて呟くと、ロキも壁に寄りながら頷いた

「随分時間オーバーしたけど、そんな雰囲気だね」

 

“ご来賓の皆様方、我が娘の誕生祝賀会にようこそ……”

 

「ヴァヌー城主の挨拶だ
婚約者が見つからないまま開催か、諦めたんじゃね?」

ロキが嬉々とした声色で言う
そうだといいな
でも城主としての面子を考えると
ここまで噂が広まった以上、正式な婚約発表は
重要な気もするんだけど
婚約者不在のまま発表……そういう強攻策に出る可能性も……

「まぁでも、ひとまず安心かな……
あとは、ぼくが城主の娘と直接話を……
……あ、そろそろ切れる、飲まないと」

喋ってるうちに“変化”に気付いたぼくは、
バッグから小瓶を取り出し、一滴舌の上に垂らす

「何ソレ?」

「一時的に声を変える薬だよ、エルフ村のハーブティエン製
ロキもの……」

ロキにも少し分けてやろうかと差し出したその時、
大広間からとんでもない言葉と共に大歓声が上がった

“娘自らが考えた企画、豪華商品を用意致しております
張り切ってご参加ください
名づけて!!!!!! 捜索ゲーム『鯛ちゃんを探せ、婚約者捜索まつり』!!!!!!”

「ぶ!!!!????」

ロキと同時に吹いた

……は、はぁあああぁあ!?

“この会場内に鯛の姿焼き様がいらっしゃいます
どんなお姿でいらっしゃるかは不明……”

…………まずい…………全然諦めてない
しかも娘さんが考えた企画?
全然会ったこともない人が
そこまでして探し出そうとするのは何故……?

だめだ、思考がまとまらない
しばらくロキとぼくは顔を見合わせたまま
ただ城内に響くアナウンスを聞くだけだった

……

…………

……………………く、こんなことしか思いつかないのかぼくは

「……ロキ」

「ど、どうするんだ、鯛……」

「警備が薄くなった今、
男性用の礼服を誰かから奪うことは簡単だと思う」

「それを、鯛に渡せばいいんだね」

「違う、ぼくが着ちゃったら普通に見つかるじゃんか
それはロキが着るの」

「え? 俺?」

「そのウィッグとメイド服、全部ぼくによこして」



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